秋休みダニエル(大きい)子供劇場
『野ねずみ将軍第二話』
時刻も深夜、成都城下の賑わいもすっかり潜まり
灯りは寂れた飲み屋にぽつりと灯るばかり。
その飲み屋で大きな男が体を丸めてすすり泣いていた。
この男、酒は強いが泣き上戸である。
誘ってきたはずの仲間はとうに酔いつぶれたか鼾
店に他に客は残っておらず、店主も机に手をつき舟をこいでいる。
ひとり愚痴りながらちびちび飲んでいたはずなのに
気付くと机の上に仲間がいた。
それは昨日見つけた妖精(?)のちゅう子龍将軍だった。
野:「お前、好いた奴がいるのか?」
ケ:「・・・聞いてもらえます?ちゅう将軍」
酔いがまわっているせいか、ケ芝はこの小さな飲み仲間に
悩みを相談する事にした。
ケ:「俺ね、めっちゃ好きな人がいるんですヨ
その人のためなら死ねる位・・・」
野:「誰だ?」
ケ:「・・・・直球っすね、将軍」
相手は天然だったことに気付いたが
今更取り下げる事も出来なかった。
野:「・・・わかったぞ。あいつが好きなのだろうケ芝」
ケ:「う・・・あなたにはバレると思ったんスよ。
なんか見透かしてそーだし。」
ケ芝は左掌の下の酒をグッと飲んだ。
隣でちゅう子龍は「おぉ、いい飲みっぷりだ!」と
楽しそうにその小さな掌を叩いている。
二人共酔いが回っているせいか、思考に若干ズレが生じている
ことに気付いてはいなかった。
というかケ芝は「ーの兄」という肝心な部分が
聞き取れていなかったのだ。
ケ:「どうしたらあの人に好きになってもらえますかね?」
ケ芝は溜息混じりの声で最大の悩みを告げる。
ちゅう子龍はしばし考えた後発したのが
野:「・・・そうだなぁ、北の教えでは“太った者には餌付け”(※友達参照)
というのがあるぞ。」
これだった。
ケ芝は首を傾げながらも訂正する。
ケ:「何言ってンすかちゅう将軍。あの人太ってないですよ。
まーあなたからみたら(ある意味)皆太ってるかも
しれないですが、あの人はスマートです。」
きっぱりとそう告げるケ芝を驚きの目で見つめていたが
野:「うーむ、そんなに好いているのか・・・」
ちゅう子龍は唸りながらもなんとか理解を示した。
野:「本気なのはわかった、−で、どうなりたい?
押し倒したいのか?」
まさかの言葉にケ芝はあわてながらも否とはいえず
視線を彷徨わせていると
野:「ふむ、抱きたいのだな?」
ケ:「だッ・・・・!?ば・・・・やっ・・・・!!」
二度目の空気も読まぬ直球の言葉に顔中が熱くなる。
こんなに小さくて可愛らしいのにまさかそんな言葉が出るとは。
あまりの衝撃に言葉が紡げないでいると
相変わらずの落ち着いた声音で
野:「恥ずかしがらずともいい、当たり前だ」
と言われた。
恥ずかしすぎてまた涙がでるかと思った。
このちゅう将軍、見た目は小さくとも心はやはり将軍だった。
かなり気まずく思いケ芝は視線を合わせられずにいると
内袋に飴が入っていることに気付いた。
昨日喜んで食べていたからきっとこれで話題をそらせるだろう。
それに今日のはイチゴ味である。
ケ:「ちゅ、ちゅう将軍、飴食べませんか?」
野:「うん・・・・しかし私には大きい。」
袋から出した飴はケ芝の親指の先程の大きさであったが
ちゅう子龍の口には到底入らない大きさだった。
ケ:「あ、そ、そうですね・・・では」
ケ芝は飴を勢いよく握りつぶした。あまりに力が入っていたので
飴は四方に砕け散ってしまう。
「・・・・・・・・・・・・・ありがとう。」
砕け散った破片を目で追いながら、ちゅう子龍は一応礼を言った。
この飴を歯で割ればよかったのだと昨日と同じ過ちに
気付いたのは、翌朝目が覚めてからだった。
そこは自室の寝台の上で、いつ帰ってきたのかも覚えていない。
ケ:「・・・・夢、だったのか?」
ケ芝は困惑しながらも、出仕のため起き上がったのだった。
おまけ。
野:「髪切った?」
ケ:「切ってません。」