※天敵の次の話です。
趙愛兵
対決の日は唐突に来た。
それは趙雲が重い書簡を何巻も運んでいたので、ケ芝が駆け寄り、代わりに運んだ後のことだった。
笑顔でお礼を言われ、気分が浮き立ち気付かなかったが敵はこんなところにもいたのだ。
軽い足取りで書庫から引き返した瞬間、ケ芝の後頭部に何か硬い物がぶつかった。
「いっってぇーーーー!!?」
涙目で睨みながら振り返るが、誰もいない。見ると足元に鏃を外した矢が一本落ちていた。
その矢には紙が結んであった。
「矢文!?普通本人から的を外すだろ!?」
鏃を外しているという事は当てる気満々だったということだ。
むかついたのでケ芝はそれを読まずに近くで兵たちが焚き火をしている中に投げ込んでやった。
再び歩きだした時
ゴツッ!!
また後頭部に何かぶつかる。
「痛いっつってんだろうが!!」
ケ芝が吼えながら振り返ると、焚き火している兵たちは恐怖に震えながらも自分達ではないと首や手を左右に
激しく振った。
「じゃあどいつだ!?清々堂々と来いよ!」
兵たちは困惑しながらも、こっちから飛んできたと書庫の上の窓を指差す。
ケ芝は目を細めてじっと見つめるが犯人が姿を現す気配はない、殺気もない。逃げたのだろうか?
「あの・・・足元・・」
言われてまた足元を見ると、今度は文鎮に紙が巻かれていた。
「どーしても俺に読めってか、口で言えよ度胸無ぇな」
苛々しながら開いてみるとそこにはこう書かれていた。
警告する。
貴殿は趙将軍に近づきすぎている。
将軍は皆のものであり誰のものでもない。
重々肝に命じられたし。
趙愛兵一同
趙愛兵・・・・?
「おい、趙愛兵とはなんだ?」
再び声をかけてきたケ芝にびくっとしつつも焚き火の兵の一人がおどおどしながら答えてくれた。
「あ・・・えぇと、確か・・趙将軍を応援している兵が私的に作った団体、です。」
・・・そういえば、張苞も以前そんな事を言っていた気がする。趙将軍に危害を加えないなら別にと
気にもとめなかったが、向こう側としてはこちらの存在が気にくわなかったようだ。
「おい、読んだぞー。」
一応窓に向かって一言言ってから、ポイと焚き火に投げ捨てた。どうせ姿を現しもしない弱い奴等だ。
ケ芝はやはりあまり気にかけなかった。今度は歩きだしても後頭部に打撃をくらう事はなかった。
「ケ芝、いるかい?」
ケ芝が鍛錬場で休憩していると、少し開いた戸から趙雲が顔を出した。
「ちょ、趙将軍!はい、います!なんでしょうか」
ケ芝が慌てて駆け寄ると、趙雲はちょっと悪戯っぽい顔をしながらちょっといいかな?と断わってきた。
いいに決まっていると激しく首肯すると、ちょいちょいと手招きされた。
なんだろうとドギマギしながら鍛錬場を出ると
「いつもお世話になってるから、お礼を持って来たんだ。」
「お・・・そんな、俺が好きでやってるんです。お気を使わないで下さい。」
「いやそんな高いものでもないしね、今兄上と城下へ行ってきたんだがー・・・」
だらしない笑顔を全開していたケ芝は『兄上と城下』という言葉にぴくっと反応すると、みるみる不機嫌な
顔になったが趙雲は上着の内袋を漁っていて気付かなかったようだった。
「あった、これ・・気にいるかわからないけど似合いそうだなと思って・・・参ったな、片方落としたのかもしれない」
趙雲は尚も漁るがでてこなかったようだ。困った顔のまま握り締めている手をそっと取り、震える手でゆっくり開かせると
大きな金輪の耳飾が出てきた。
「あの、これ・・・」
俺が貰ってもいいのだろうか?嬉しすぎて飛び跳ねる心臓が口から出そうである。
平安と二人で城下へ行ったのはものすごく羨ま・・いや腹がたつが、そんな途中にケ芝に似合うから・・と
お礼の品を選んで買ってきてくれたのかと思うと嬉しくてたまらない。
「ありがとうございます・・一生つけて大事にします。ーこんなに嬉しい事は無いです」
感無量で声を詰らせながら言うと、趙雲は大げさだなぁと笑いながらケ芝の肩を叩いた。
「気にいってくれてよかった。片方無くしてすまなかったね、また今度違うの買ってあげるから」
「いえ、いいんです・・・これが、いいんです。」
「そうか。」
趙雲は嬉しそうに相好を崩すと、鍛錬の邪魔をして悪かったね。と一言謝り立ち去っていった。
ケ芝はその姿が見えなくなるまで見送ると、急いで左耳の耳飾を外し貰ったばかりの大きな金輪をつけた。
その時
ートン
背中に調練用の木の昆がつきつけられた。
「鍛錬場裏に、来てもらおうか。」
背後から低い声ですごまれ、ケ芝は一応従ったが、今誰に襲われたとて負ける気がしなかった。
昆を突きつけられたまま鍛錬場裏に行ってみると、十数人の兵たちが手に武器を持ってケ芝に殺気を
放っていた。
「お前は忠告を無視した、あの後大人しくしていれば一員に迎え入れてやったのに。」
「てめぇ調子のってんじゃねぇよ、趙将軍はお前の事犬くらいにしか思ってねぇんだよ!」
「なんとか言えよコラ」
口々にすごんでくる。・・・が、集っても所詮兵士である。己は武器を持っていないが負けはしないだろう。
ケ芝はめんどくさそうに頭を掻いた。
「まぁ待て皆、こいつは今将軍から贈り物をもらった、その耳飾を我等に渡し身を引くというのであれば
許してやろうじゃないか?」
どうやら幹部らしい三人の男がずいと出てきて回りの兵士達にケ芝が動けないようガッチリ捕まえさせた。
「さぁ・・・渡してもらおうか」
一人の男が手を伸ばし、金輪に触った瞬間、ケ芝の怒りが爆発し、押さえていた男達が宙を舞った。
数分後には、そこは男達の呻き声でいっぱいになっていた。
その真中で息一つ切らしていないケ芝は苛々と金輪を拭った。趙将軍と俺しか触ってなかったのに!!と
腹を立てる彼はもう重症である。
キッ!と倒れている男達を睨みつけるとこう怒鳴った。
「馬鹿野郎、敵を見誤んじゃねぇよ!!」
そう言われても趙愛兵たちはポカンとするばかりである。
「な、何が・・?」
「敵は、俺より他にいるだろうが最大の敵が!」
「さ、最大の敵?」
どうやらわかっていないようである。ケ芝は苛々と舌打ちした。
「いるだろうが、平安が!これだって平安と城下へ行った帰りの土産のようなものなんだぞ!?」
言って自分で落ち込むケ芝に、趙愛兵たちは哀れに思いながらも反論する。
「し、しかし平安は特別枠だ。義理とはいえ兄で、あんなに将軍が慕っているんだぞ?」
「だが義理の兄とていずれ何するかわからないだろう、それより手すら繋げない俺を敵と見てどうすんだよ!!」
また自分で言って自分で落ち込みまくる。
「そ、そうだな。確かにそうだ。見た目と裏腹にこの男はヘタレだ!危険じゃない!」
凹んでいるケ芝の耳に更に追い討ちをかけるような言葉と共に同意が次々に飛び込んできた。
「兄貴!これからは兄貴と呼ばせてもらいます!」
「ついていきます兄貴!」
「一緒に平安を倒しましょう!」
「・・・・・・・。」
なんだか思惑と外れてしまったが、どうやら自分に部下ではなく子分が出来たことを理解した。そのことより
こいつらは趙将軍に手が出せないとわかったことに安心したのだった。
あとがき
趙愛兵との対決でしたー。なんか中学生か!みたいなことになってるけどもこれが書きたかったんだw
最初趙雲の副将かと思ってた趙愛兵3人、でもケ芝に顎でつかわれてませんでしたっけ??
出陣もケ芝の前だし、もしかしてケ芝の副将?だからやっぱりあんなに趙雲好きなの??て思ってたんで
こうなりました(やりすぎ?
なんかケ芝、張苞に掌でころころされてますね、意外とダークホース・・??