※この話はパロディになっており張飛と趙雲がさらに昔の時代の人になっているので
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笑府
ある男が野ざらしになっている骸骨を見つけた。可哀想に思い埋葬して帰るとその夜誰かが訪ねてきた。
誰だと聞くと「フェイです」と名乗った。更に尋ねると
「楊貴妃です。馬嵬で殺されて以来葬られる事もなかった私を供養して下さいました。お礼に夜伽をさせて下さい。」
と答え、その晩二人は一夜を共にした。
これを聞き羨んだ隣家の男がやはり野ざらしになった骸骨を見つけ埋葬するとその夜やはり誰かが訪ねてきた。
誰だと聞くと「フェイだ」と答える。楊貴妃ですかと聞くと「俺は張飛だ」と言う。仰天して「張将軍は何ゆえお来しで!?」
と尋ねると「拙者、漢中で殺されてから葬られることもなく野ざらしになっておったのを、貴殿に供養していただいた。
お礼に夜伽をさせていただきたい」と言い男を仰天させたという。妃(フェイ)と飛(フェイ)をかけた笑い話だ。
・・・・別にそれを信じる年ではない。しかし俺の足元には一つの頭蓋骨。この戦乱の時代骨の一つも落ちているのが
当たり前とも思うが、拾い上げてみると俺の頭より少し小さい、会った事はないがきっと張飛ならもっとでかいだろう。
本当に楊貴妃が来たら嬉しいけどなとか思いつつ、馬に踏まれて潰れるのは骨といえど可哀相だと近くにあった木の側に
埋めてやり、再び鍬を担ぐとケ芝は家へと急いだ。
都から遠く離れたこの寂れた村には少数の老人と中年の女性、少しの子供しかいなかった。力のある男は
今やケ芝しかいなかい。皆戦争や夜盗に襲われ死んでいったのだ。そのためケ芝は重宝がられて朝から晩まで
色んな家の手伝いをさせられ、毎日くたくたになって帰るのだった。質素で小さな家につくと寝台につく前に横になった。
「はぁー・・・疲れた。飯作るのめんどくせぇな」
しかし早く火をつけないと日が落ちて真っ暗になってしまう。もう少ししたら・・と、ケ芝は目を瞑って疲労回復に努めた。
この男、ケ芝は雲台二十八将筆頭であるケ禹の一族の名門の男だった。しかし仕えていた君主の不興を買い
お家取り潰し一家惨殺の目に合い方々の手で逃げた数人の親戚も山賊に襲われ殺された。今や生き残りはケ芝一人
その時着ていた絹の服と玉環などの装飾品を売り今の小さな家と必要最低限の家財を買い細々と畑仕事をしながら
食いつないでいた。しかし元々畑仕事をしたことが無いどころか身の回りの事もしたことが無かったものだから常に
難儀していた。今や大分慣れたとはいえ豪華な邸でぬくぬくと暮らした過去もあり、最初の頃はかなり浪費してしまった。
この冬を超す為には最後の一つである左耳の耳輪も売らなければならなくなるだろう。敬愛する母の形見だったので
手放したくなかったのだが、このままではひもじい思いをしながら凍え死ぬのを待つ事になる。
どうせこのまま生きても辛いなら、最後に楊貴妃を抱いて死ぬのもいいな・・と自暴自棄に考えていると、トントンと扉を
叩く音がした。どうしたのだろう、御裾分けくれるとか言うのだったら嬉しいなと体を起こすと、辺りはもう真っ暗だった。
「はい、どちらさまでしょうか?」
ケ芝が声をかけると
「ユンです。」
と答える。ユン・・・?そんな奴いたっけ、と頭を捻る。
「どういう字ですか?」
「雲と書きます」
雲・・・・そんな奴村にはいない。まさかとは思うが御伽噺ではユンではなくフェイだ。
「・・・何の御用で?」
「趙雲です。戦で殺されて以来野ざらしになっておりました所貴方様が供養して下さいました。」
趙雲・・・聞いた事ある。伝説の英雄だ。確か勇猛果敢な武将の男である。声も低い。
「まさか・・・」
「お礼に夜伽させてくださー・・」
「断わる!俺はそんな趣味はない!!ただの気まぐれで埋めたんだ帰ってくれ」
思わず想像してぞわっと鳥肌の立った体を守るように手で覆いそう言い放つ。お願いだからそのまま帰って二度と来るな。
「しかし、そう言われても・・・気まぐれでも礼を返さぬのは無礼だ。」
「俺は男になんか興味ない、抱かれたくもないし抱きたくも無い!」
「それは私も同じだが体一つしかない霊だから礼につかえるのも体だけなんだ。まぁ、年取った男ではあるが。」
よくそれで男の俺に礼になると思ったなと溜息をつく。しかし、霊というのはもっと怖いものだと思っていただけに
拍子抜けだ。
「では他の事でできるだけ礼をかえすから望みを言いなさい」
「俺別に礼が欲しくて埋めたわけじゃねぇんだがなぁ・・・望みねぇ?・・・・家名を復活したいかな。」
「家名?」
「ケという名門だったんだが親父が不興を買って今ではこの様だ。あまりにも情けなくてな、今は亡き母もうかばれない。」
「ケ・・・司徒のケ禹のケ家か、そんな簡単に潰されるような家ではないと思ったが」
「うちは文官ばっかりだからな、過去に不正があったとでもでっちあげれば簡単に落ちる。趙雲殿のような武勲なら
そんなことにはならないだろうが、文官の世界なんてこんなもんだ。」
ケ芝が自嘲しながらそうぼやくと
「なら武将になればいい、武将として復活しよう」
と趙雲にさらりと言われた。
「あなたじゃないのだから、そう簡単にいくわけがないでしょう」
護身として剣の基本を幼少期にならっただけである。
「大丈夫だ、私が教える。畑仕事しているのだろう?なら筋肉はついているだろう」
さらりと答えられるが、そんな上手く行くわけが無い。
「それに教えると言ったって一晩でどれほどのものになると言うんです、たかがしれてます。」
「夜伽じゃないからね、家名が復活するまでついててあげるさ。私もそこまで非道ではないしね」
「・・・・・・。」
武将と言う事はすなわち戦場に立つという事だ。人を殺すのは嫌だが、ここで野たれ死ぬよりは潔いだろう。
「よし、わかった。ではよろしく頼む。」
ケ芝は立って戸をがらりと開けると、そこには想像していた筋肉隆々の厳つい男ではなく、しなやかで美しいきりりとした
銀髪の老人が立っていた。
「こちらこそ頼む。」
にこりと人好きのする笑みを浮かべる趙雲を見て、ケ芝は夜伽を断わった事を少し後悔した。
*あとがき*
張飛が来たら正直ちょっとびびるがアンディ趙が来たら喜んで家にあげて鍵を閉める(コラ)のは
きっと私だけではないはず!